「大学の怪談」第一幕・きはる(春)

標準

これから語るのは昔の話で、学生時代に出会わせられた不思議な事件の事情だ。自慢するつもりじゃないけど、私は真面目な学生だった。頭が良かったから、ある日、奇妙なことに気がついた。
 ある前日と違う日から、私の周りの人々が突然、そして、静かに次々と消えてはじめた。皆成績の素晴らしい人たちだった。そう。私のライバルだった。あのとき私はまだ知らなかった。これから定めを定められ、責任を受けられることになることは。運命は勝手に動き出し、私を始まったばかりの悲劇に参加させた。

◆◇◆◇◆
◎ きはる ◎

 授業が始まるまで、あと四十分。広い講堂で、前から二例目に座り、気に入らない本を読む。気に入らない上にとても長い本だが、私は一刻も早く終わるようにその本を懸命に読む。勿論こんな不愉快なことをする理由がある。私の後ろに座っている学生は元気そうに話をする。私はどうしてもこの本を読まなければならない理由は、途中諦めることが時間の損だというわけだ。それはいかん。気に入らなくても、終われば、この本は読んだ本になり、私の知識が広がるはずだ。「一」になりたいものはそう考えなければならない。勿論私のライバルにも色々作戦がある。油断できない。本に集中しようとするが、太陽の光は目に辿り、不気味に眩しい。私は子供の頃から、太陽に対して弱い。鼻血が出てしまい、体が弱まる。今週から、この講堂に来ることになり、私は光の変化を計っていない。ここでは、最初の例目に進むと決める。授業が始まるまで、あと二十分。新しい縄張りを眺めようとするとき、楽しそうな笑いが聞こえる。この授業は一日の最初の授業だから、皆楽しそうで、不思議じゃないが、笑いの聞こえた方向は誰もいないはずの先生の机の辺だ。変だ。気のせいだろう。太陽のせいかも知れない。再び己を嫌な本に沈めることにする。授業が始まるまで、あと十分。彼女はまだ来ていない。もう来たかも知れない。心配は要らない。彼女も私と同じく真面目な学生だし、こんな大事な授業を怠るわけがない。きっと来る。見ている本を読まないことに気がつき、少しいらいらする。そして集中しようとする。時間を無駄にしてはいかん。彼女と競いたいだし、私は一番になりたいんだ。自分に一番だということを信じ込ませたいんだ。だってそうでしょう。懸命に勉強して、疲労や苦労を味わい、どんどん減ってきたライバルの軍隊を眺めてきた。生き残りの私たちのなかにも一人しか一になれない。私は既に二つの悲痛な失敗を耐え、もうこれ以上はけして敗北などは受けられない。だからずっと勉強することにしたんだ。真夜中に失敗の悪夢を見て、起き、覚えていない言葉の意味を教科書や辞典に探すこともある。軽い気に寝た最後はいつだっただろう。覚えていない。必要なら、もう寝ないことにする覚悟もある。私は一番になるため、完璧な計画がある。その計画を何度も直してきたんだ。言えば完璧だ。今度は勝つ。「一」になる夢の幻覚を見るお前らは…私は勝つ。先生がマイクで挨拶すると、授業は始まる。
 この授業に出る学生は少ないけど、真面目な学生が必ずこの授業を選ぶことにする。うちの学部のエリートはこの授業で養成されると思っても、事実から遠くない。先生は必要な情報を私たちに伝われたあと、一例目の反対端に座っている学生に文を読ませ、訳すという。そちらを見ると、彼女は三番目だ。二番目の学生も選ばれた分を訳すと、彼女は次の文を読む。柔らかい声が空気に注がれ、私の耳に辿る。ずっと彼女が読めばいいのに。一例目の端に座っている私は六番の文に集中する。たいしたことじゃない。五番目の学生は五番目の文を訳すと、私は始まる。「よいな…」と優しい女声が先生の机のほうから聞こえる。見えるとあそこに誰もいない。そして先生も七番目の学生を聞く。誰なの。目の前の文に集中し、ちゃんと自分で訳すことができることを確かめてみる。心配など要らん。私は計画通り勉強せば、これは容易い。また彼女の番になることを待っている間、ライバルの読んだり訳したりすることを聞く。獲物や敵の足音を細かく聞く猛獣のように。
 二時間の授業は終わる。私は時間を無駄にせず講堂を出る。次の授業が始まるまで三十分ある。疲労を消すように顔を寒い水で洗うと決める。顔を洗い、鏡の中に浮かんだ感情のない我が顔を見て、大事なことに気が付く。読んでいるは講堂に忘れてしまった。
 講堂に戻ると誰もいない。私の本は一例目の机の右端にある。おおきな歩でその方へ行く。本を鞄に入れ、講堂を出るとすると、後ろから「さいなら…」と楽しそうな声が聞こえる。びっくりして、止まり、私は振り返って、講堂の外から聞こえられないように「だれ?」と聞く。返事を受けないほうが一番増しだ。しかし「あての名前、千里や…」と返事していただく。こんな状況にどんな反応が適当なのか知らず、私はとりあえず礼儀正しくしようとする。相手にそんな口調で話をかけられたし。
 「こんにちは…」
 「こんにちはあ…名前はなに?」と女声は聞く。
 「アイディン…と言います…」
 「馬の時も終わるで。授業はあらヘンか?」
 「まだ十五分ぐらい時間があります…千里さんはどこにいるんですか?」ととうとう私は聞いてみる。
 「近くにいるで…」と女声は返す。
 なにを言えばいいのか分からず、私は別れ言葉を言おうとする。
 「それじゃ、私は…」
 「ぞくぞくしまんな…そちらの若者たち…フフフ…」
 「何がですか?」
 「知らへんか…」
 「何がですか?」と私はまた聞く。
 「いづれ、分かるで…」と彼女は答えてくれない。私は時間がなくて次の授業に行く。妙に千里さんに対してそんなに怖くない。優しそうな声だったからかな。それとも私の無意識はもっと怖い物事に気付いたかな。次の授業には彼女はいない。千里さんは何かを知っているだろう。夕暮れ彼女と会いに行くと決める。うちの大学に変な事件が起きたら困る。
 授業が終わると、私は食事をしに大学を出る。いつも、少しうちの大学から離れた大学で食事をする。あそこは広くて、あまり行き来のないホールがある。食事としていつも、チョコレットを食べながら、コーヒーを飲み、ホールの壁に付いている不気味な絵などを見る。
 午後の授業が終わると、私は千里さんと話をしにあの講堂に行く。
 「おじゃまします。」と私は広い教室に入り、千里さんの返事を待っている。でも返事がない。五分空っぽい講堂の中に座り、そして大学を出て家に帰る。大変な一日だった。いや…むしろ大変な一日はこれから先だろう。
 翌日朝早く授業があり、薄青い空に出ている陽を見ながら大学に参る。今日大学で何か事件でも起こったそうだ。正面の前に人々が集まり、救急車や警察の車もある。注意深く群集の間を通り、大学に入るが、誰も私を止めない。階段の上に見える飲食店のドアが不思議に閉めてあり、ドアのそばのガラスは血で染みている。ホールの奥の階段を使って、三階に上がる。何があったか、後で分かるはずだから。でも、心配だ。この変な感じは久しぶりだ。誰の心配をしているだろう。千里さんとであった講堂じゃない講堂に入り、前の二例目に向かう。もう三人もいる。朝早く来る学生は普通一人に来るから、みんなバラバラに座り、話をしていない。嫌な本を出し、読みかける。九時に始まる授業まで、後二十七分だ。言えば、辰の時間だ。
 後ろに座っている二人の女性は楽しそうに例の事件について話し込んでいる。私も聞いている。
 「…そんなわけないじゃない、自殺して血があんな風にガラスにぶっ掛けると思うの、それに、あの子、成績が素晴らしかったじゃない、彼みたいな人は自殺なんかするかよ…」
 「…でも、誰がそんなことをするの?…」
 「さあねえ…」
 分かるべきなことが全て分かる。後数分で授業が始まる。講堂は学生で溢れ、うるさい。いつもと違う。みんな事件について話をする。その話の中に聞こえるのは、楽しさ、悩み、そして恐怖だな。でもよく見ると格好がいつもと全然違っていなく、平静な人結構いる。そして、もっと見ると彼女もいる。友達の話を聞いている彼女も平成で、相変わらず相応しい。先生は授業を始める。事件について何も言わない。でも彼の顔には悩みがいくらでも見える。授業をするほど集中できるなんて、さすがだ。

続く…

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中