月別アーカイブ: 11月 2012

「大学の怪談」第四幕・雪ひらひら(冬)終

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◎ 雪ひらひら ◎

 テーブルに辿り、テーブルの右や左にも椅子があることに気が付く。左の椅子を選び、座り、彼女の目を見られず、渦巻き模様で紫色の茶碗を触れる。快く温かい。彼女は何も言わずに、考える顔をして、時々私を見ると私は感じる。お茶を穏やかに飲み、幸せだと思う。ただ彼女と話せるため話を掛ける。
 「…も…もう一人の方も…来ますよね…」
 彼女は優しく微笑み、「どうして?誰かを待っているの?」と言う。これは私たちの最初の会話だ。私の平叙文の質問と彼女の疑問文の言明は…素敵な会話になる。
 「いいえ。」と私は言い、お茶を飲み干す。その後、統べるのは沈黙だ。でも、永遠にこの沈黙は続けてもいい。骨までその雰囲気の温かさを感じ、飲んだお茶の美味しさを楽しむ。
 「勉強はどう?」と彼女は優しく聞く。
 「難しくなったけど…楽しいんだ…」と私は答える。
 「熱心で勉強するよね。きっと、明日の試験でも、一番素敵な成績を取るでしょう。」と彼女は自分と私の茶碗にお茶を注ぎながら、言う。
 「一番素敵な成績を取るのはそちらだと思いますよ。」と私も注がれるお茶を見ながら、言う。
 彼女は私を見て、微笑み、「ありがとう」という。一瞬彼女は私の言ったことに驚いたように見えた。そしてまた、しばらく一緒に沈黙を聞き、お茶の匂いを楽しむ。実に華々しい。
 「そろそろ終わらなくてはいけないね。明日の試験のため、ちゃんと休むべきでしょう…」と彼女は言う。私は何も返事せず、会話の続きを彼女に任せる。
 「私たちの夢は分けられないね…」と彼女は続き、「私はこれからこの茶碗の一つに酷い毒を入れる。匂いもなく、味もない毒だが、毒の入れたお茶の一滴を飲んでも、死ぬのだ。どちらを飲むのか、あなたが決める。私は残る茶碗を飲み干す。振り返ってくれる?」と説明する。
 私は彼女の優しい目を見て、頷いて、振り返る。彼女の姿や私の姿、そしてテーブルとテーブルの上にある全ても窓のガラスに映っている。そして窓のあまり遠くない場所に窓のそばに座っている子が倒れて死んでいる。彼女は振り返った私を少々見て、着ている紺色の素敵な上着のポケットの中から小さい瓶を出し、自分の桜模様の赤い茶碗に一滴の毒を注がせる。彼女は窓のガラスに映っている私に微笑む。そして毒の瓶をポケットの入れて、「振り返っていいよ。」と言う。私は振り返り、二つの茶碗を見える。毒はどの茶碗に入れたのか、私は知っている。そして、彼女は私がそのことを知っていることを知っている。では、このゲームの目的はいったいなんだろう。
 神仏のシワは毎日世界中の一番酷い毒を誰にも飲まれないため、飲んで苦しむと言われている。なぜ他人の代わりにわざわざ自ら毒を飲むか私は分かる。でも言えない。その答えは言葉になるものではなくて、写生のできない感じだから。
 彼女の桜模様の赤い茶碗を穏やかに手に取り、一滴一滴を楽しむように彼女が作ったお茶を飲み干す。彼女は優しく私に微笑み、彼女の目の中に柔らかい感謝の感じが見える。彼女は私の渦巻き模様で紫色の茶碗を取り、お茶を飲む。そして、再び私に微笑して、「一分位かかるでしょう。」と言う。彼女はもっともっと美しくなる。そして、一分は終わってしまう。彼女の唇の端から、血が一滴流れて落ちる。彼女は何も言わずに死んでしまう。どうして?私が毒入りのお茶を飲んだじゃない。
 「やられたのう…毒は薬缶の中に入ってんねん…アイディンの飲んだお茶に入れたのは解毒剤やったわ…」と私の後ろにいる千里さんは説明してくれる。
 そうか…彼女の髪を撫で、彼女の血を拭きたい。でも、それはいけない。肩に責任の重さを感じる。時間はない。私は今までどれだけ時間を無駄にしただろう。
 翌日の試験に出るとき、妙に眠りたくない。夜中、一分も寝なかったのに。妙なことは、それだけではない。死んでいる彼女はいない。試験を中止させないように、自分の死と死体を隠している。上手く試験を終わる。このごろ何も起こらなかったように。
 一週間後、掲示板に載っている合格のできた人のリストの頂上に私の名前は書いてある。
 「一、20902364モダレス・アイディン」
 千里さんのいる講堂に行き、先生の机の後ろで地面に座る。満足ではない。でも、責任を負い、果たしただろう。思い出は最初から最後まで目の前に移っていく。管の間に座って、頭を膝に置いて、時間の減ることを見る少年が見える。忘れていた親しい本の名前やカバーを覚えている。
 気が付くと、既に日が暮れ、暗くなっている。そして、雪が降っている。ひらひらと。私は雪が降っているとき、雪の降る町で埋まった。この雪は私を迎えに来てくれたかもしれない。幼稚園の問に来てくれた母の姿が見えるときの気持ちだ。懐かしい。忘れていることはこんなに多いの?大学に誰もいない。ベランダに出て、降っている雪を触れる。寒いけど、優しい感覚がする。
 雪は朝までずっと降り、段々と重ねた。日が出ると、吊るした私に辿り、重ねた雪に長い影を映す。「一」と書いてあるように。長い一だ。筆の墨が終わるまで一を書くようになっている。

終わり

「大学の怪談」第三幕・紅葉(秋)

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◎ 紅葉 ◎

 秋の雨の降っている日々は相次いで経た。淋しい時間で、段々難しくなってきた勉強から離れ、ザーザーと窓を刺したりする雨を聞きながら寝る思慕も強まっている。私だけではなく、他の学生も疲れていると見える。連続殺人事件で不景気になったからなのか、ライバルが経たから熱心も弱まったからのなか分かれない。千里さんと会うことを続け、一週間で二三回も彼女と話をする。差の話の大体は事件と繋がっている。
 「お茶いかがなの?」と千里さんは聞く。眠ってしまうところだった私は「いただきます。」と笑って、言う。
 「先生のテーブルの後ろに薬缶や茶碗あるわ。美味しそな匂いしまっせ。」と千里さんは言う。私は驚いて、行ってみる。確かにお茶がある。
 「召し上がれ。」と言われ、私は茶碗にお茶を入れる。いかにも美味しそうなお茶だ。注がれるお茶は快い湯気を立てる。
 「ありがとうございます。千里さんが作ってくれたんですか?」
 「いいえ。あてはお茶作れへんし、飲めへん…匂い嗅げるだけ。」
 「私以外誰かが千里さんと会いに来るというわけで科?」
 「ええ。一人だけ。あちらも常にここ来はるで。優しい人や。いろいろ話さはる。」
 「その人はお茶を作ることが上手いですよね。」
 「でしょう…」
 「もしかしてその人は…」と私は聞きかけるが、続きはどうやって言えば知らず、黙っている。
 「その人の秘密はその人の秘密やがな…いづれ知るべきものは全て分かるで。」
 「その時は遅いかも知れません。」
 「アイディン…人殺しはそちらに非常に近い…」
 私は家に帰りながら、千里さんの言ったことに考えた。答えはとても近くてとても遠い。彼女を守るため、彼女に近づくべきなのか?それとも彼女を離れるべきなのか?
 試験の二十日前、とうとう嘘の安全状態が壊れ、学生が一人命を落とし、私のライバルも一人減った。今度の事件は今までのとかなり違う。殺人だと言えるかどうかも、人によることだ。被害者の男の子は私たちの目の前に大学の陸屋根から跳び、地面にぶつかり死んだ。大学も遂に五日閉館になれ、千里さんとも話せなかった。五日後大学に来ると、まだパニック状態だった。今までの被害者は全員私たちの同級生だったじゃないと皆自分で聞く、次は私かもしれないと思う。千里さんが宿る講堂での授業で、彼女の顔を見た。まるでその相応しさは悩みなどの感じを¬表せない。後ろの例目に刑事の方々が座り、私たちを察する。その視線を感じる。彼らの猛スピードで書く音が聞こえる。
 授業が終わると宿題をしに講堂に残るフリをして、千里さんと話せる適当な時間を待っている。でも後ろに座っている刑事の一人も講堂に残り、私を睨んでいるそうだ。私を守るのか、疑うのか分からんが、とにかく千里さんと話せないわけだ。
 教科書などを鞄に入れ、講堂を出るとしているとき、「非常階段を使い夕暮れ来い…」と千里さんは私の耳に囁く。
 次の授業が終わると、日が暮れるままで、空は赤い。私は非常階段を使い、千里さんの講堂に行く。見るとこの階段にもカメラがある。別にこの階段を使うことは反則じゃないが、なぜ千里さんはこの階段を使うと言ったかな。講堂に着くと、彼女は講堂を出るところだ。私を見て、挨拶するように微笑む。では千里さんと会うもう一人の学生は彼女だったな。そして…私が飲んだお茶は、彼女が作ってくれたお茶だった。その辺に妙に誰もいない。警察はカメラに映った私が見えなかったかな。
 「おはようございます。」と講堂に入り、挨拶する。
 「おはよさん。元気そやのう…」と千里さんは返事する。
 「千里さん、非常階段にもカメラがあったじゃないですか。」
 「ええ、でもそのカメラはあてあやつるカメラの一つどっせ。」
 私は安心して、彼女を見たことを表せず、一時間ぐらいも千里さんと話をした。帰ることにしたとき、空はもう真っ暗だった。
 「アイディン…明日の日も暮れると、一が決められ、全ては終わる…」
 「え?」と私はびっくりする。
 「来るか?」と津里さんは静かに聞く。
 私は数分も何も言わずに、千里さんが立っていると思う場所を眺める。そして、「来ますよ。」と決断する。試験は二日後だ。
 翌日授業に出ると変わったことなどがない。千里さんの予言によると今晩一が決められる。というわけで、彼女も、残っているライバル、あの窓のそばに座っている子も今晩起こる事件に巻き込まれる。私は一の位置を彼女に譲る覚悟があり、殺される覚悟もある。でも、一になれるのは私たち二人だけではなく、もう一人の人もいる。その人は彼女を狙っては許せない。でももし、狙う猛獣は私子こそなら、今晩彼女は私の手に殺される可能性も思われるじゃない。決め難い状況だが、私は今晩事実と出会うつもりだ。
 午後の授業には彼女は出ない。あの窓のそばに座っている子もいない。でも怪しくない。彼らはこの授業を選んでいないからだ。午後の授業も終わると、私は図書館に行き、二三時間も待って、本を読む。そして、その嫌な本をようやく終わる。図書館の閉館になり、私は鞄を取って、千里さんの講堂に向かう。非常階段を選んで使うが、そうしなくても大丈夫だろう。警察も運命に逆らわない。私たちの運命は私たちの手に決められるはずだ。講堂に着くと、迷わず、どんと入る。
 先生のテーブルの後ろに座っている彼女はお茶を奇麗な茶碗に注ぎ、前に押す。私のお茶だ。千里さんもどこかにいるはずだ。窓のそばに座っている子もここに来るはずだ。彼女は私を見て、静かでやさしく微笑む。

続く…

「大学の怪談」第二幕・酷暑(夏)

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◎ 酷暑 ◎

 三日も経た。忘れたわけじゃないけれど、誰も事件について話をしない。千里さんの講堂に座り、授業をしている先生の疲れた顔を見ずに、ノートをとる。陽が酷くて、平たいテーブルに輝く。千里さんはどこかに座って、私を見ているかな。疲れて、授業に集中する以上考えることができない。最近とても疲れている。誰も気付いていないらしいが、学生は一人足らない。また真面目な学生の一人が消えている。その殺された学生の血まみれな体が近くにある。殺されても、授業を見逃せない。その死体に覆う血の匂いが嗅げる。陽に温められ、沸いて流れる。その流れ音が聞こえる。天井のどこかに隠してあるかな。なぜ、私はそんなことを知っている?ただの気のせいだろう…私は無意識に危機がそばにあると気付いている。壁の後ろに這い、私たちを狙う。その猛獣は私かもしれない。
 授業は終わると、私は講堂に残り、宿題を書きかける。勿論、講堂が空になると待っている。千里さんと話したい。彼女は何かを知っている。二番目…いゃ、三番目の被害者は私かもしれない…彼女かもしれない。
 十分待つと、講堂に私以外誰も残らない。「千里さん、いるんですか?」と私は聞く。「何…」と前回と同じ場所から返事を受ける。
 「おはようございます。」
 「おはようさん…」
 「また一人の学生が殺されたんですね。」
 「かもな…ほんで?心配しとるか?」と千里さんは興味のなさそうな声で聞く。
 「当たり前でしょう。千里さんは人殺しの正体はご存知ですか?」
 「ヒントを教えたってわ。この頃あて感じるのは妬みどっせ…」
 「ライバルを殺すというわけです。」と私は頷く
 「そや。気をつけなくちゃ。」
 「その人殺しは私ですか?」ととうとう聞く。
 少しの間の沈黙の後、「その質問の答え、自分で探してみい…」と千里さんは言う。
 翌日も、その翌日の翌日も私は千里さんと話をした。彼女はヒントを色々教えてあげるけれど、私はまだ自分にでも信用できるかどうか分からない。ややこしい。授業も段々難しくなり、私は懸命に勉強する。一つ間違いない。人殺しは私たちの中の一人で、成績が良い。眼鏡をかけて、いつも本を読む男の子かも知れない。授業中何度も質問を聞く女の子かも知れない。私かもしれない。あの窓のそばに座り、集中している人かも知れない。私はノートを書きながら、一瞬自分も座っている三例目の左端を見る。彼女は座って、穏やかに先生の話を聞く。彼女の顔にも皆のように疲労が見えるけれど、諦めそうもない。彼女の目は昼寝から起きた象の子の目のように、優しくて甘い。彼女は近くに隠れている危機に気付いていないだろう。
 五日後、遂に二番目の死体が発見された。行方不明で警察に捜されていたからではなく、腐っている匂いで発見された。素敵な女の子の腐っ
ている死体はね。警察は調査を一心に勧めるけれど、犯人は手がかりを一切も残していない。そう。頭のいい人で、こんなに早く捕まえられるわけじゃない。でも二番目の死体が発見されてから大学は警察で溢れてきた。大学の正面の前に鞄を調べられ、大学の何処でもカメラに映られている。面接に行かれる学生もいる。先生たちは授業で連続殺人事件について一文字も言わないが、警察と協力したら大丈夫だと学生たちを頑張らせる。二十日後とても大事な試験があるからだろう。
 犯人が捕まえられないかぎり、また高級学生が殺される。そく学生は私かも知れない。彼女かも知れない。終わらせてみせる…

続く…

「大学の怪談」第一幕・きはる(春)

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これから語るのは昔の話で、学生時代に出会わせられた不思議な事件の事情だ。自慢するつもりじゃないけど、私は真面目な学生だった。頭が良かったから、ある日、奇妙なことに気がついた。
 ある前日と違う日から、私の周りの人々が突然、そして、静かに次々と消えてはじめた。皆成績の素晴らしい人たちだった。そう。私のライバルだった。あのとき私はまだ知らなかった。これから定めを定められ、責任を受けられることになることは。運命は勝手に動き出し、私を始まったばかりの悲劇に参加させた。

◆◇◆◇◆
◎ きはる ◎

 授業が始まるまで、あと四十分。広い講堂で、前から二例目に座り、気に入らない本を読む。気に入らない上にとても長い本だが、私は一刻も早く終わるようにその本を懸命に読む。勿論こんな不愉快なことをする理由がある。私の後ろに座っている学生は元気そうに話をする。私はどうしてもこの本を読まなければならない理由は、途中諦めることが時間の損だというわけだ。それはいかん。気に入らなくても、終われば、この本は読んだ本になり、私の知識が広がるはずだ。「一」になりたいものはそう考えなければならない。勿論私のライバルにも色々作戦がある。油断できない。本に集中しようとするが、太陽の光は目に辿り、不気味に眩しい。私は子供の頃から、太陽に対して弱い。鼻血が出てしまい、体が弱まる。今週から、この講堂に来ることになり、私は光の変化を計っていない。ここでは、最初の例目に進むと決める。授業が始まるまで、あと二十分。新しい縄張りを眺めようとするとき、楽しそうな笑いが聞こえる。この授業は一日の最初の授業だから、皆楽しそうで、不思議じゃないが、笑いの聞こえた方向は誰もいないはずの先生の机の辺だ。変だ。気のせいだろう。太陽のせいかも知れない。再び己を嫌な本に沈めることにする。授業が始まるまで、あと十分。彼女はまだ来ていない。もう来たかも知れない。心配は要らない。彼女も私と同じく真面目な学生だし、こんな大事な授業を怠るわけがない。きっと来る。見ている本を読まないことに気がつき、少しいらいらする。そして集中しようとする。時間を無駄にしてはいかん。彼女と競いたいだし、私は一番になりたいんだ。自分に一番だということを信じ込ませたいんだ。だってそうでしょう。懸命に勉強して、疲労や苦労を味わい、どんどん減ってきたライバルの軍隊を眺めてきた。生き残りの私たちのなかにも一人しか一になれない。私は既に二つの悲痛な失敗を耐え、もうこれ以上はけして敗北などは受けられない。だからずっと勉強することにしたんだ。真夜中に失敗の悪夢を見て、起き、覚えていない言葉の意味を教科書や辞典に探すこともある。軽い気に寝た最後はいつだっただろう。覚えていない。必要なら、もう寝ないことにする覚悟もある。私は一番になるため、完璧な計画がある。その計画を何度も直してきたんだ。言えば完璧だ。今度は勝つ。「一」になる夢の幻覚を見るお前らは…私は勝つ。先生がマイクで挨拶すると、授業は始まる。
 この授業に出る学生は少ないけど、真面目な学生が必ずこの授業を選ぶことにする。うちの学部のエリートはこの授業で養成されると思っても、事実から遠くない。先生は必要な情報を私たちに伝われたあと、一例目の反対端に座っている学生に文を読ませ、訳すという。そちらを見ると、彼女は三番目だ。二番目の学生も選ばれた分を訳すと、彼女は次の文を読む。柔らかい声が空気に注がれ、私の耳に辿る。ずっと彼女が読めばいいのに。一例目の端に座っている私は六番の文に集中する。たいしたことじゃない。五番目の学生は五番目の文を訳すと、私は始まる。「よいな…」と優しい女声が先生の机のほうから聞こえる。見えるとあそこに誰もいない。そして先生も七番目の学生を聞く。誰なの。目の前の文に集中し、ちゃんと自分で訳すことができることを確かめてみる。心配など要らん。私は計画通り勉強せば、これは容易い。また彼女の番になることを待っている間、ライバルの読んだり訳したりすることを聞く。獲物や敵の足音を細かく聞く猛獣のように。
 二時間の授業は終わる。私は時間を無駄にせず講堂を出る。次の授業が始まるまで三十分ある。疲労を消すように顔を寒い水で洗うと決める。顔を洗い、鏡の中に浮かんだ感情のない我が顔を見て、大事なことに気が付く。読んでいるは講堂に忘れてしまった。
 講堂に戻ると誰もいない。私の本は一例目の机の右端にある。おおきな歩でその方へ行く。本を鞄に入れ、講堂を出るとすると、後ろから「さいなら…」と楽しそうな声が聞こえる。びっくりして、止まり、私は振り返って、講堂の外から聞こえられないように「だれ?」と聞く。返事を受けないほうが一番増しだ。しかし「あての名前、千里や…」と返事していただく。こんな状況にどんな反応が適当なのか知らず、私はとりあえず礼儀正しくしようとする。相手にそんな口調で話をかけられたし。
 「こんにちは…」
 「こんにちはあ…名前はなに?」と女声は聞く。
 「アイディン…と言います…」
 「馬の時も終わるで。授業はあらヘンか?」
 「まだ十五分ぐらい時間があります…千里さんはどこにいるんですか?」ととうとう私は聞いてみる。
 「近くにいるで…」と女声は返す。
 なにを言えばいいのか分からず、私は別れ言葉を言おうとする。
 「それじゃ、私は…」
 「ぞくぞくしまんな…そちらの若者たち…フフフ…」
 「何がですか?」
 「知らへんか…」
 「何がですか?」と私はまた聞く。
 「いづれ、分かるで…」と彼女は答えてくれない。私は時間がなくて次の授業に行く。妙に千里さんに対してそんなに怖くない。優しそうな声だったからかな。それとも私の無意識はもっと怖い物事に気付いたかな。次の授業には彼女はいない。千里さんは何かを知っているだろう。夕暮れ彼女と会いに行くと決める。うちの大学に変な事件が起きたら困る。
 授業が終わると、私は食事をしに大学を出る。いつも、少しうちの大学から離れた大学で食事をする。あそこは広くて、あまり行き来のないホールがある。食事としていつも、チョコレットを食べながら、コーヒーを飲み、ホールの壁に付いている不気味な絵などを見る。
 午後の授業が終わると、私は千里さんと話をしにあの講堂に行く。
 「おじゃまします。」と私は広い教室に入り、千里さんの返事を待っている。でも返事がない。五分空っぽい講堂の中に座り、そして大学を出て家に帰る。大変な一日だった。いや…むしろ大変な一日はこれから先だろう。
 翌日朝早く授業があり、薄青い空に出ている陽を見ながら大学に参る。今日大学で何か事件でも起こったそうだ。正面の前に人々が集まり、救急車や警察の車もある。注意深く群集の間を通り、大学に入るが、誰も私を止めない。階段の上に見える飲食店のドアが不思議に閉めてあり、ドアのそばのガラスは血で染みている。ホールの奥の階段を使って、三階に上がる。何があったか、後で分かるはずだから。でも、心配だ。この変な感じは久しぶりだ。誰の心配をしているだろう。千里さんとであった講堂じゃない講堂に入り、前の二例目に向かう。もう三人もいる。朝早く来る学生は普通一人に来るから、みんなバラバラに座り、話をしていない。嫌な本を出し、読みかける。九時に始まる授業まで、後二十七分だ。言えば、辰の時間だ。
 後ろに座っている二人の女性は楽しそうに例の事件について話し込んでいる。私も聞いている。
 「…そんなわけないじゃない、自殺して血があんな風にガラスにぶっ掛けると思うの、それに、あの子、成績が素晴らしかったじゃない、彼みたいな人は自殺なんかするかよ…」
 「…でも、誰がそんなことをするの?…」
 「さあねえ…」
 分かるべきなことが全て分かる。後数分で授業が始まる。講堂は学生で溢れ、うるさい。いつもと違う。みんな事件について話をする。その話の中に聞こえるのは、楽しさ、悩み、そして恐怖だな。でもよく見ると格好がいつもと全然違っていなく、平静な人結構いる。そして、もっと見ると彼女もいる。友達の話を聞いている彼女も平成で、相変わらず相応しい。先生は授業を始める。事件について何も言わない。でも彼の顔には悩みがいくらでも見える。授業をするほど集中できるなんて、さすがだ。

続く…